ディズニーランド
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はだい悠
「ねえ、どうしたの?」
「良いから、走って、後ろ向いちゃだめ、ああ、もうだめだわ。」
「ねえ、ねえってば、どうしたっていうの?」
「ウフフ、ウキャキャ、もうたまんないわ。」
「ねえ、どうしたのよ、いったいなにがおかしいの?」
「ああ、おかしかった。あのままじゃ目の前で大声で笑うとこだったわ。だって、笑ったら悪いじゃん。あたしたちの前に座っていた人、立とうとしたらバッグが棒に引っかかって二度もこけたのよ。おかしくって、おかしくって、アハハハ、、、、」
「なんだ、そういうことだったの、びっくりしたわ。チカンオヤジにあったのかと思っちゃった。」
「フウ、息が切れたわ、ちょっと休もうか?」
「うん、あっ、なにか飲み物を、あたし買ってくるね。なにが良い?」
「ええと、ヒトミちゃんにまかせる。」
「それじゃ待ってて。」
「うん、待ってる。」
「お待たせ、ねえ、これでよかったよね。」
「良いわよ。、、、、ああ、おいしい。」
「、、、、ねえ、タバコ吸う?」
「ふうん、いらない、あたし吸うと頭が痛くなるの、、、、それよりここで吸っていいのかしら?なんか吸ってる人いないわねえ。」
「いないねえ。えい、じゃあ、やめよう。」
「ねえ、今日は日曜でもないのに何でこんなに人が多いんだろうね。」
「そうね、夏休み、じゃ、まだないよね。あたしたちはちゃんとした休みなんだけど、ほかの人たちはサボっているのかしら?」
「きっと色々なのね。今日は天気がよくてほんとによかったわねえ。」
「うん、ほんとによかったねえ。」
「たのしい?」
「うん、たのしい。」
「わあ、高い、あれ見て、お城、お城よ。きれいね。」
「きれい、ここで一番高いんだろうね。あそこに上がったらきっとずっとずっと遠くまで見えるんだろうね。」
「ねえ、絶対にあそこの前で写真とろうね。」
「うん、撮ろう撮ろう。」
「ねえ、ミッキーのグッズ、買って帰るんでしょう。
「、、、、うん。」
「夏休みに帰るとき、お土産にしようと思っているの。ヒトミちゃんも夏休み、ふるさとに帰るんでしょう。」
「、、、、うん、、、、」
「ねえ、君たち、僕たちと一緒にまわらない?」
「まわらない。」
「冷たいこといわないで良いだろう。学生?」
「がくせい。」
「ねえ、これからどこに並ぶの?」
「教えない。教えないわよねえ。」
「冷たいな。なあ、一緒にまわろうよ。良いだろう。、、、、まあ、いっか、じゃあねえ。」
「、、、、あいつらまだ高校生よ。」
「子供の癖して、お姉さんたちをナンパしようなんて、十年早いわ。」
「クックックック、、、、」
「ウハハハハ、ウキャキャキャキャ、、、、」
「わあ、びっくりした。あの人、サキ先生そっくり。見て見て、あの人。」
「あっ、ほんと。服のセンスの悪いとこなんか、そっくり。」
「厚化粧のとこもね。」
「クックック、、、、」
「ウッキャキャ、、、、」
「ああ、いやだあ、なんか歩いている人の顔、先生とか先輩とかお客さんとか、いろんな人の顔に見えてくるわ。どうしてかしら?」
「それは、マヤちゃんがまじめだからよ、仕事のことが気になって頭から離れないのよ。」
「うへっ、そんなことないわよ。あたし仕事のことなんかぜんぜん気になってないわよ。それにさあ、ほんとのこと言って、仕事なんかちっとも楽しくないわよ。毎日むかつくことばかりでさ、このままで良いのかって思ってるくらいよ。あたしたちが四月に入ってきたとき、新人が全部で六人いたでしょう。でも今では三人しか残ってないでしょう。あたしもこれからどうしようなかって、ほんとは迷っているのよ。」
「えっ、マヤちゃんも。マヤちゃんもそんなこと考えているの。実はあたしも考えているのよ。あたし、どっちかって言うと、マヤちゃんのように器用でもないし、まじめでもないし、もしかしたらあたし美容師の仕事あんまり向いてないんじゃないかと思っているの。ねえ、そう思うでしょう。」
「いや、そんなことないとおもうわ。ヒトミちゃんも、ヒトミちゃんなりに一生懸命がんばっていると思うけど。」
「うん、そうね。でもね。実はさ、あたしさ、このあいだ町をあるいていたら、声をかけられたの。モデルをやらないかって。でもそのモデルになるためには、レッスンとかなんかで取りあえず五十万円かかるんだって。でもあたしたちはまだ見習だから給料はほとんどないでしょう。それでそんな大金無理だといったら、そのぐらいのお金ならすぐに稼げるところがあるって言うの。そのうとこの人が紹介してあげるから、そこで働けば五十万や百万はすぐにたまるというの。ねえ、最高の話でしょう。マヤちゃんも良いと思うでしょう。それでどうしようかなって、いま真剣に悩んでいるの。、、、、あたし、たぶん、夏休みふるさとに帰らないと思うわ。そこで、もしかして、もしかしてよ、マヤちゃんがふるさとから帰ってきて、あたしが寮にいなかったら、やめたと思ってね。黙って出て行くことになるけどさ。そのときはごめんね。マヤちゃんはさ、あたしと違って、素直で我慢強いから、きっとりっばな美容師になれるし思うわ。がんばってね。」
「そんなことないわよ。あたしだってほんとは毎日のようにむかついたり腹を立てたりしているのよ。頭にきて、今までに何度もやめたいって思ったことがあるのよ。みんなは何でもかんでもすぐわたしに云い付けるでしょう。ほかにもいるのに、なんであたしばっかしって、ほんとに嫌になる。なんかいじめられているみたいでとっても嫌なの。それにさ、あたし一生懸命やっているのに、ドジったりすると、起こられるのは良いけどみんな笑うでしょう。笑われるのってとっても嫌なの、なんか馬鹿にされているというか、からかわれているというか。それに、あたしって、そう見えないかもしれないけど、とっても好き嫌いがはっきりしていて激しいのよ。良い人と思った人は別になんともないんだけど、嫌な人は嫌だと思ったら、もうだめなの。その人とは話もしたくなくなるし、その人の言うことだって素直に聞けなくなるの。驚いた。」
「マヤちゃんって、感情が顔に出ないタイプなのね、きっと。、、、、それで、嫌いって、、、、たとえば、店長とか、、、、」
「てんちょう、、、、店長は、あたしそんなに嫌じゃないの。尊敬しているし、成れるなら店長のような美容師になりたいと思っているわ。ねえ、どうしてみんなは店長のこと悪く言うのかしら。面と向かって不満を言う人もいるけど、陰でグチュグチュ言う人も多いでしょう。どうしてなのかしら、あたしは店長は誰よりも仕事ができる人と思っているの。ときには厳しい顔をするときがあるけど、普段はとっても穏やかでやさしい人でしょう。それなのにみんなは、どうして悪く言うのかしら?ヒトミちゃんも嫌いなの?」
「そうね。なんか、えらそうって云うか、冷たいって云うか。ほんとうはマヤちゃんの言うとおり、やさしい人だと思うんだけど、なんかだめなのね、あたしには。だって、あたしには、まだできないことを言いつけるのよ。まだ無理だって言うのに。それでさあ、あたしのやった後を手直しするのよ。それってものすごく嫌味じゃない、それなら最初からあたしにやらせなければ良いのにねえは。こんなこともできないのって感じで、なんか馬鹿にされているみたい。きっと、あたしをダシにして自分のできることを見せびらかしているのね。」
「、、、、うん、そんなつもりじゃないと思うけど。ヒトミちゃんはオグラ先生のことどう思ってた?よく店長と意見が合わなかったみたいだけど。、、、、たぶん、きっと、それが原因でやめていったのね。」
「そうね。人使いも荒いし、失敗するとよくしかられたけど。でも、こっそりとタバコの吸い方を教えてくれたりして、ほかの先生のように一緒にいても、あの緊張するっていう感じっていうのが、まったくない人だったから、とっても気は楽だったわ。」
「実はね、あたし、オグラ先生のこと嫌いだったの。ねえ、入ったころのこと覚えている?新人の誰かが態度やロの利き方が悪かったりすると、あたしたち新人全員が悪いような言い方してさ、あまり性格の良さそうな人には見えなかったでしょう。それに、なにかを言いつけられてね、まだよく知らないので、どうしてよいか判らずにもたもたしているでしょう、そうすると、いらいらして手にもっていたものを乱暴に取り上げたりして、すぐ感情的になる人だったでしょう。あたし、あういう人だめなの。それにさ、なんていったって嫌だったのは、なにかあると、あたしが忙しくても、すぐあたしに言い付けることなの、他の人が手があいててもだよ。そこでもし失敗でもしたりすると、たいした失敗じゃないんだけどね、浮ついた気持ちでやってるからだなんて、厳しい言い方をするのよ。あたしは仕事のできる人からなんて言われようとかまわないわ。でも、あんなヘタクソな人から言われるのはたまらないわ。マジ、むかついたわ。だからあの人がやめてほんとうによかったわ。あんな技術じゃどこに行っても通用しないわよね。」
「えっ、マヤちゃんって、オグラ先生のこと嫌いだったの?」
「うん、大嫌いだったわ。」
「、、、、そうなの、、、、いつかオグラ先生、マヤちゃんのこと言ってた。あの娘は将来自分の美容院をもって、たくさんの後輩を育てあげられるような立派な美容師になれる人だって。」
「だれが?なれるって?」
「マヤちゃんが。」
「うっそ、、、、」
「ホントよ。、、、、ねえ、これからどこへ行く?」
「、、、、どこに行こうか。」
「あっ、そうだっけ、忘れてた。」
「ねえ、パレードを見るでしょう。」
「見る見る。あっ、門限に間に合うかしら?」
「そのときはそのときよ。」
「門限なんてクソッタレよ。」
「ウクククク。」
「ウキャキャキャキャ。」
「今日は思いっきり楽しもうね。」
「うん、楽しもうね。」
「おどろうね。」
「うん、おどろうね。」
「はじけようね。」
「うん、はじけようね。」

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