母たちの伝説
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真善美
過去の伝説
いつの頃の事でしょうか、
「私たち女は、人の上に立ったり、他人を従属させることは決して望みません。
私たちが望むのは、周囲のほとんどの者が良い男と認めるような、
そして、生まれた子供が育つまでのあいだ、
私たち母子を妬む女たちの苛めや、
つまらない男のちょっかいから私たちを守ってくれるような、
強く優秀な男の子供を生みたいだけなのです。
やがて子供が成長して人々を支配するような大人になったとき、
そのような立派な人間を生んだ母親として、私たちは褒め称えられたいのです。
そのためには、どんな過酷なことが私たちの身に起ころうとも、
絶えず微笑を持ってそれらを迎え入れ、耐え忍ぶことが出来るのです。
私たち女は褒め称えられさえすれば、いとも簡単に変われるのです。
過去を忘れて何にでもなれるのです。」
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
いつの頃の事でしょうか、
長引いた梅雨が開けたある朝、作業衣に身を包み家の外に出てきた農婦が、よく晴れ渡った空を見上げながら呟くように言った。
「さあ、今日は暑くなるぞ。」
でも、その表情には笑みが浮かんでいた。というのも、畑と田んぼの間にあるヤマモモの木陰で、特にかんかん照りの午後にはいつも涼しい風がそよいでいるその木陰で、休むことが出来ると思っていたからだった。
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
いつの頃の事でしょうか、
その小さな姉は、母に会いたいと弟に泣いてせがまれ、母が手伝いに行っているという大きな農家に連れて行った。
母に会って帰って来るとき、その家の者から二人は二つの塊の氷砂糖をもらった。
小さな姉はさっそくひとつは弟のロにもうひとつは自分のロに放り込んだ。だが、すぐある事を思い出し、それをロからだした。
それは家にはさらにもっと小さい弟がいることだった。そこで小さな姉は道端の葉っぱにそれを包み懐にしまいこんだ。
家に帰ると小さな姉は裏庭に生き二つの石を見つけ、それで懐から取り出した氷砂糖を割り始めた。だが、氷砂糖は均等に二つに割れなかった。
最初は大きなのと小さなの、二度目も大きなのと小さなの。小さな姉は悔しくて泣きそうになった。もういいや自分は大きいのを食べればいいやと思った。
でもため息を小さくついた後もう一度試みた。またもや大きいのと小さいのだった。すると小さな姉は、もういや、声を上げて怒ったように言った
。でも、すぐ心を入れなおして、その小さな三つを一塊にして大きな一つの塊と比べてみた。
三つの塊は大きな一つの塊よりも多いように見えたが、これはあたしが食べればいいとなにげなく思うと、それを手にもって小さな弟のところに行った。
そしてロを開けさせ大きな一つの塊を放り込むと言った。「どう、おいちい。」小さな弟は目を虚ろにし、とろけたような表情のして動かなくなってしまった。
それを見て小さな姉は三つの塊りを自分のロに放り込んだ。
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
いつの頃の事でしょうか、
病気と老衰で意識は朦朧とし、この二、三日は何も話さなくなっていたので、もう長くはないと思われていたその家の主は、病床の周りに集まってきた家族の者に、突然正気を取り戻したかのように、そしてだれの耳にもはっきりと判るようにゆっくりと話し始めた。それは家の主の壮年のころの思い出だった。
「あの娘っこは、いってえ、どうしたんだべ。スズランの木を持ってきた娘っこだよ。あの日はうんと暑い日でな、田の草取るのも、いやになって、わしは、昼前にあぜ道で休んでいたんだよ。そしたら、大きい道を、袋に入れた荷物を背負い、手には花を咲かせたスズランの小枝を持った十五、六の若い娘っこが、西のほうから歩いてきて。ちょうど角の楢の木の前の堰のところで、顔を洗って休んでいたのさ。わしが近づいて、どごがらきたのさ、と聞くと、娘っこは、あの山のほうから、と西のほうを指差して言って、そごでわしが、どこまでいぐさ、と聞くと、あっちの町屋敷までと、今度は東のほうを指差しながらけろっとした顔で言うんだ。山のほうから町屋敷までは四里ほどある、こんな暑い日、荷物を背負って大変だなあと思って、そごでわしが、何しにいぐだ、と聞くと、娘っこは、春頃腹がいだくていだくて困っていたときに、偶然通りかかった町の役人に薬を分けてもらって、そのおかげで痛みも治まったということで、そのお礼のために、これから芋を持ってその役人の居る町屋敷まで行ぐということだったのじゃ。袋に入っていたのはその娘っこが育てた芋だったのじゃな。そごでわしが、町屋敷までは遠いぞ、判るか、と言うと、娘っこは、笑顔で、夜になると明かりが見えるところだから、大丈夫、平気だ、と言ったんじゃ。さらにわしが、そのスズランの花はどうしたのじゃ、聞くと、娘っこは、歩いてくる途中であまりにもきれいだったので、家に持って帰ろうと思って、折って持ってきたの、とわらす子みたいに無邪気に言ったんじゃ。でも、娘っこは、これからずっと持ち歩くのはスズランの花によくないと気づいたみたいでな、そごで、帰りには必ずもっていぐがらと言って、スズランの花の小枝を堰の水溜りにさして、再び東のほうに歩いていったのじゃよ。うんだども、次の日になっても、その次の日になっても、またその次の日になっても、そのスズランの花はそこに置いたままじゃったのだ。そごでわしは、七日目になってもまだそこにおいてあるそのスズランの花の小枝を、このままでは枯れて水に流されてしまうだけだと思って、あの曲がり角の楢の木の傍に刺しておいたんじゃよ。それがあの大きくなったスズランの木なんじゃよ。あの娘っこ、いってえ、どうしたんじゃろうな。どうしたんじゃろ。」
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
いつの頃の事でしょうか、
山あいの村に、 だれにも、平等に土地を分け与えると云う噂を聞いて、遠い見知らぬ町から若い夫婦がやってきた。
ところが、土地はもうすでに分け終えたところだった。その夫婦は残念そうな顔をしたが、すぐ穏やかな表情に戻った。
それを見ていた役人が、あまり良くない場所だけど、それでも良いか、と聞くと、夫婦は急に輝くばかりの笑顔になって、どんなものでもかまいません。ありがとうこざいます。と深々と頭を下げてお礼を言った。
夫婦が分けてもらった土地は、日当たりの悪い畑と、石ころだらけの斜面だった。それは他の村人に比べてはるかに条件の悪い土地だった。だが夫婦はそのことに対して少しも不満を漏らさなかった。というよりも、遅れてきたにもかかわらず、それでも土地をただで分け与えてもらったと云う感謝の念でいつもいっぱいで、そんなこと頭に間浮かべたことさえなかった。
夫婦はまじめに働いたが、生活は他の村人に比べてあまりよくなかった。それでも夫婦は他の村人を羨まなかった。そのうちに夫婦は、斜面の石ころをどけて棚田にした。それはわずかなものであったが生活は幾分良くなった。
夫婦はまだ若かったが、子供は居なかった。
歳月が流れ、夫婦の頭に白髪が混じるようになった頃、娘が生まれた。夫婦は喜び、山や田畑に、お天道様に、そして村人に感謝した。
村人のだれもがそれを喜び祝福した。夫婦は、その太陽のような娘の笑顔に励まされるようにさらに懸命に働き、棚田を広げた。
ところが三年後、その娘は病気にかかって突然のように亡くなってしまった。夫婦は嘆き悲しみ何日も泣き続けた。村人の誰もが泣いた。その声に山の狐や狸も歩みを止めて聞き入るほどだった。墓は家の裏山に建てられた。
それでも夫婦は、山や田畑や、お天道様や、村人に感謝しながら働き続けた。
ところがそれから数年日、今度は夫が、病気にかかって突然のように亡くなってしまった。妻は白髪を増やして深く悲しんだ。村人は、今度はだれも泣かなかったが言葉を失い、村はしばらくの間静かになった。墓は二つになった。
それでも妻は、山や田畑や、お天道様や、村人に感謝することを止めなかった。
独りぼっちになっても妻は、畑を守り棚田を守り懸命に働き続けた。腰が曲がり白髪になっても働き続けた。やがて、風に枯れ葉が散るようにその生涯を閉じた。墓は三つならんで建てられた。
それから数年後、その場所に町からやって来た新たな若い夫婦が住むようになった。
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
いつの頃の事でしょうか、
三方が雑木林と萱の野で囲まれた畑を一人の農婦が力強く鍬で耕している。そこへ背後の雑木林の笹薮をかき分けて一人の娘が現れた。年のころ十二、三。娘は笹薮の縁に腰をおろすと、両手で顔を覆い泣き出してしまった。農婦は仕事の手を休め、娘に近づき横に腰をおろした。だが娘はただ泣き続けるだけで何も言おうとしなかった。農婦も何も言わなかった。やがて農婦は再び畑を耕し始めた。だが娘はなおも泣き続けた。しばらくして遠くの方から、小さい子供たちの声が聞こえてきた。萱の隙間越しにニ、三歳の二人の幼子の姿が見えた。それを目にしてその娘は急に泣くのを止めて立ち上がると、先ほど来た道を引き返すかのように、笹薮の中に入り、その姿を消した。
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
いつの頃の事でしょうか、
ときおり、こぶし大の石ころが出てくる畑を耕している農夫の所に、いつもぼんやりとしている十歳の長女がやって来て、
「今度、新しく生まれて来た女の子に、なんという名前をつけるのか、聞きに行って来いって言われた。」
と言うと、一家の主でもあるその男は、何か深い考えに浸るかのようにしばらく天を仰いでから言った。
「意志の強い、はっきりとした人間に育ってほしいから、名前はイシだ。」
それを聞いた長女は、帰り際、谷川のイワナを見ながらのんびりと家に帰った。
家に帰った長女は、生まれた女の子の名前はイワだと言った。
夕方、家に帰った主は、生まれた娘の名前がイワになっていることを聞いてびっくりした。でも、それならそれでも良い、たいして変らないと思い、そのままにしておくことにした。
イワは成長するとともに、骨太で体のがっしりとした本当に岩のような女になってしまった。性格は温厚で純朴でひたむきだった。そしてその頑丈な体にものをいわせた働きぶりは男に負けないくらいだった。だからその姿はほとんどのものには男のようにも見えた。
イワは年頃になった。でも嫁入りの話はなかなかなかった。村ほとんどの若者の耳には、イワが働き者であるという評判が届いていた。でも同時にその容姿のことも知れわたっていた。若い男同士でよくそのことが話題になった。こんなことを言う者がいた。
「いくら働き者でも、あれじゃなあ、肩幅は男みたいに広いし、脚は蟹股だし、まるで歩く岩石だよな。女は年を取ればみんな干からびた丸太みたいになるけど、でも若いうちは、少しぐらい働きかわ悪くっても、スラッとして、ナヨッとして、やはらかそうなのが良いよな。さわったら気持ちよさそうでさ。それで顔が人並みに可愛いけりゃ、何にもいうことがないよな。ところがイワは顔も女離れをしているからな。四角い顔に、小っちゃな眼、まるで、大きなオニギリにまぶしたゴマみたいな眼をしているからな。さわってもごつごつしているんじゃな、俺はあんなのとは絶対に仲良くなりたくないな。まかり間違って惚れられでもしたらかなわんからな。若いときは夢を持って生きたいよ。」
また、こんなことを言う者もいた。
「性格はおとなしいっていうけど、そうでもないぞ。たまたま近くでイワと仕事することがあって、ちょっとからかってみたんだ。顔のことで。そしたら顔をサルみたいに真っ赤にして怒って。気性も男みたいなところがあるな。」
そういう話を耳にしながら、たぶんそうだろうな、俺も同じ気持ちだと、いつもうなずきながら聞いている若者がいた。名前は与助といい、イワと同じ村の者だった。みんなの話を聞いた後、与助はいつもこう思った。イワにはできるだけ近づかないようにしよう。もしどうしても話さなければならないことがあったら、顔を見ないで話すようにしよう、顔を見て、あまりにもみんなの言う通りなので、思わず笑ってしまったりして、怒られたりでもしたら怖いからな、と。
あるとき、各家から一人ずつ出て、用水路の保全と整備のために共同で作業することになった。それには与助とイワも参加した。与助はできるだけイワから離れた所にいることにした。ところがいざ作業が始まると、どういうわけか、イワの近くで作業しなければならなくなってしまった。そこで与助はいろいろと理由を見つけては、できるだけイワから離れられるように画策した。しかし、そうすればそうするほど、どういうわけが、どんどんイワの近くに近くにと移動せざるを得なくなり、ついにはイワの隣で作業をしなければならなくなってしまった。あまりにも近づきすぎて体が触れ合うこともあった。与助は絶望的な気持ちになりながらも、でも何が起ころうと絶対に知らん振りをしようと思った。
だが、どうしてもイワに話しかけなければならないことになった。与助はしょうがないと覚悟を決め、でも以前に誓ったように、イワの顔だけは絶対に見ないで話しかけようと思った。
そして与助は話しかけた。ところが、そのとき与助はあれほど固く決心したにもかかわらず、いや、もしかしたらその所為なのか、何か外からの力に突き動かされるように、思わずらイワの顔を見てしまった。あっと思ったときはもう遅かった。なぜかイワの顔から目を離すことができなくなっていた。それはまるでイワの顔に魅入られてしまったようであった。そのとき与助は、なんという不覚、なんとしてもイワから目を離さなければ、という思いとはまったく正反対の感情にとらわれていた。
「確かに眼は、でっかいオニギリのゴマ粒のように小さい。でも、なんて可愛いんだろう。それに体だって、思っていたより小さいし、そんなにごつごつした感じではなかった。それに男とは違う、なんか甘いような匂いがしていたな」と。
その後与助は、そのときの正直な気持ちを忘れることはなかった。でも、そのことを決して他人に話すことはなく、胸の奥へ奥へとしまいこんでいた。それからしばらくして、ふってわいたようにイワとの縁談話が持ち上がったとき、与助はとくに喜ぶわけでもなく嫌がるわけでもなく、終始冷静さを装いながら周りに薦められるままにした。
イワは三人の息子と三人の娘を生んだ。子供たちはみなイワにそっくりで、体は岩のようにがっしりとし、顔は大きく眼は小さく、性格は温厚で純朴でひたむきだった。
二人の息子と三人の娘は、隣村や同じ村の婿や嫁となった。
これがあなた方の遠い遠い母たちなのです。
現在の伝説
その老婆はタクシーから降りると、その閉まるドアのほうに向かって深々とお辞儀をした。
これがあなた方のあまりにも身近にいる母たちなのです。
その若い母は自分の愚かさゆえに我が子を殺害した。
初めは何が起こったか理解できないほど自分を失っていたが、そのうちに自らの死をもってしても償いきれない罪を犯したことに気づいた。
女は絶望し生きる気力も失い死刑を望んだが、反省も十分にしていて、しかもまだ若く立ち直る可能性はあるという理由で死刑にはならなかった。
数年後、女は刑期を終え出所したが、だからといって、自分の犯した罪が消えてなくなったという気持ちにはどうしてもなれなかった。
老いた両親も昔の友人も何事もなかったかのように暖かく迎えてくれた。
僧侶は亡くなった子供のことは忘れずに生きている限り供養を欠かさなければ、きっと浄土に迎え入れられるだろうと言ってくれた。
近所の人は罪を償ったのだから間違いなく人生をやり直すことが出来ると励ましてくれた。
ときどき訪ねて来る民生委員の人が時間がたてはそのうちにきっと良いことが在るだろうと言ってくれた。
だが、これから自分はどのように生きればいいのか判らなくて、女は毎日を虚しく過ごすばかりだった。
ときおり殺した我が子を思い出しては、昼夜となく激しく我と我が身を責め苛んだ。
いっそのこと死んでしまえば、この苦しみから逃れられるだろうと思うのだが、それで何もかもが解決するとはとうてい思えなかった。
なぜなら自分が死んでも償いきれないほどの罪を犯したという思いが、消えることなくずっと続いていたからである。
やがて女は言葉を忘れたかのように何も話さなくなり、その顔からは感情もなくなったかのように表情が消えていった。
そんなとき女は春の花見に誘われた。
空はどこまでも青く澄み渡り、桜は木からこぼれ落ちんばかりに美しく、ときおり花びらがそよ風に舞っていた。
女に周りの人はみんな楽しそうで幸せそうに見えた。
でも自分はこんな風景には永遠に似つかわしくないような気がして深い孤独と寂しさを感じた。
そして凍えるように両手で自分の肩を抱きながらゆっくりと眼を閉じた。
やがて女は穏かな風と花びらのそよぐ音だけを感じるようになっていた。
そしてその音に混じって微かに何かが聞こえたような気がした。
女が耳を凝らすと、その音は人の声となってはっきりと聞こえるようになってきた。
「女よ、聞こえるか?私の声が聞こえるか?」
「はい。」
と女が恐怖で体を震わせながらつぶやくように答えると、その声はさらに続いた。
「女よ、なぜ震えている?そんなに私が怖いのか?何かやましいことでもあるのか?
女よ、生きる希望を失った愚かな女よ、お前は自らに命を絶てば、今のその苦しみから開放された上に、きっと魂も救われるに違いない、などと思っているだろう。
だが、その反面、そんなことで果たして本当に自分の犯した罪が許されるのだろうか?とも疑ってもいるだろう。
当たり前だ、虫の良い女よ、そんなことでお前の犯した罪が許されるわけはないだろう。
この世には、自分の肉体だけではなくの自分の魂をも犠牲にして我が子を助けようとする母親がいるのだからな。
女よ、周りにほだされて幸せになろうと思ってはいけない。
人並みに幸せになろうと思うから虚しいのだ。
もしお前がちょっとでも幸せを感じているような顔をしたら、周囲のものをお前を忌避するだろう。
それから、功徳を積み善行を重ねて救われようなどと決して思ってはいけない。
救われようと思うから深い孤独と寂しさに襲われるのだ。
もしいつかお前に救いの光が見えたとしても、お前は心の底からそれを信じることは出来ないだろう。
女よ、生きる希望を失った愚かな女よ、よく聞け。
お前の犯したは罪は、お前が思うとおり、たとえ自分の死をもってしても決して償うことは出来ないほど重いものなのだ。
だから、お前が死ぬなんてもってのほか、死んで虚しさや苦しみから解放されようなんて、いったい誰が許すでしょうか。
女よ、今のお前に残されている道はただひたすらこの世を生きることだけだ。
女よ、生きる希望を失った愚かな女よ、この世を生きるのだ。
とにかく生き続けるのだ。
なんだ、女よ、不思議そうな顔をして。
それはだな、お前がこの世で、苦痛から開放されて幸せになるためでもなく、お前の犯した罪が許されて救われるためでもない。
それはお前が地獄に行く準備をするためだ。
女よ、生きる希望を失った愚かな女よ、お前は地獄に行くのなぜ準備など必要があるのかと思っているかもしれないが、お前には必要なのだ。
なぜなら、お前は地獄に堕ちても、なおも生き続けなければならないからだ。
そのためには、今のお前にはないために、お前にとって致命的な欠陥となっていることを身につける必要があるのだ。
それは、お前が周囲に惑わされずに人間としての誇りを持って生きていくための知恵だ。
それを身につけることを地獄に行くための準備といっているのだ。
お前にとって、その知恵は地獄だけではなく、お前が残りの人生を生き続けるためにも、きっと役立つはずだ。
なんだ、女よ、何か不満なのか。
なぜ地獄に落ちても生き続けなければならないか?だと。
女よ、生きる希望を失った愚かな女よ、その理由を聞いて驚くなよ。
なぜなら、それはだな、お前は、地獄において、罪を犯した愚かな人間の女として、永遠に見世物にされるからなのだ。」
それほどまでに、お前の犯した罪は重く未来永劫にわたって許されないということなのだ。
その声が聞こえなくなると同時に、女は自分の体の震えが収まっていくのを感じた。
そして、それまで表情のなかった女の顔にはおだやかな笑みが浮かんでいた。
これがあなた方のあまりにも身近にいる母たちなのです。
未来の伝説
妻
「あなた、幸せですか。」
夫
「お前が幸せなら、私は幸せだよ。お前は幸せか。」
妻
「私も、あなたが幸せなら幸せです。あなたは幸せですか。」
夫
「だから、私はお前が幸せなら幸せなの。お前は幸せか。」
妻
「だから、私も、あなたが幸せなら幸せなんです。あなたは幸せですか。」
夫
「だから、私は、、、、もう、これじゃいつまでたっても鶏と卵だな。」
これが遠い遠い未来の母たちの伝説です。

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