ある愛の詩2050V



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          マーシャル センフィールド






「判る、ヨシツネだ。
さっきはごめん、ついカァッとしてスイッチを切ってしまって。
僕は考えた。なぜこんな事になったんだろうって。それで判ったんだ。君がどんなことでも出来るということで、色んなことを頼みすぎたことに原因があるってことにね。
それで今からは、君に秘書としての役目、それに掃除と洗濯だけをしてもらうことに決めたよ。良いね。」
「、、、、、、、」
「判ったよ。言うよ。
シズカ、大好き、愛してるよ。
でもこれはあくまでも君の能力が元に戻るために言っているのだからね。」
「はい、判りました。」
「それじゃ僕は出かけてくるから。」

ヨシツネ外出pm5:32




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西暦2049年12月22日



ヨシツネ家に帰らず




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西暦2049年12月23日



ヨシツネ帰宅pm7:43

二日ぶりに家に帰ってきたヨシツネ私に話しかける。
「シズカ、ちょっと話しが。スケジュールに余裕があるから、もっと仕事を入れても良いよ。」
私が答える。
「無理をすると体に悪いと思いましたから。」
「かまわんさ。君ほどではないが結構不死身なところがあるから。何かわたしに言うことはある。」
「本を出版する話し、あれはいつ頃から始めるんでしょうか。」
「もう少し待ってくれないか。頭がほかの事でいっぱいで。他には。」
「私の顔はどうでしょうか。」
「うん、良いんじゃない。」
「化粧のほうは。」
「女ぽくて良いんじゃない。」
「それだけですか。」
「とても可愛いよ。そうだね、シズカ、大好き、愛しているよ。
ほう、体全体も人間のような皮膚にしたんだね。とっても良いよ。」
「ありがとう。ヨシツネ。私とても幸せ。」
「そうですか、それは良かった。それから僕はこれから考え事があるんで、君は休んでいて良いよ。」

そう言ってヨシツネは私から離れて行った。






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西暦2049年12月24日



ヨシツネ起床am7:32
そして私に声もかけずに外出。

ヨシツネのスーツのポケットから、「シンデレラサービス」と書かれたカード二枚と、「逢い引き」と書かれたホテルのカード二枚見つける。

衣服をチェックすると微量の香料を発見。分析するとあのシリガル女と同じものと判る。

ヨシツネのクレジットカードと銀行口座をチェック。






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西暦2049年12月25日



ヨシツネ帰宅pm3:43

さっそく私を呼びつけ、来週コラムだといって話し始める。
「こういう内容だ。
「貧乏人は死ぬまで働け。」
ということ。誤解を恐れずに再度言おう。
「貧乏人は死ぬまで働けと。」
 百年前、同じようなことを行った国家の指導者がいた。もちろん野党の怒りを買った。国民はそれほどでもなかったが。少しだけ心理をついていたから。彼はほかにもこのようなことを言った。所得を倍増して国民生活を豊かにすると。その通りになった。今やその当時の百倍にもなっているのだが。
 さて私も前言に続いて次のように言おう。「金持ちは持っている金を死ぬまでに使い果たせ。」と。
  百五十年以上前、資本主義の勃興期に成金と呼ばれた人たちが誕生した。時代を抜け目なく生き抜いて莫大な財産を築き上げた人たちのことだ。その言葉には卑しみ蔑む意味が含まれている。苦労も努力もせずに儲けた金を国民の経済の発展に使わずに自分の娯楽や遊興のために使ったというのが主な理由だが。彼らは例外なくそう呼ばれることを嫌っていた。だから国民経済の発展に貢献するものもいた。だが、その後ほとんど者は散財し、歴史にその愚か者としての汚名を永久にとどめることになってしまった。
 愚か者かどうかは別として、果たして彼らは本当に国民経済の発展になんにも貢献しなかったのだろうか。彼らが表では脚光を浴びながら裏では揶揄と皮肉の対象的であり続けたのは莫大な富を手にした成功者への妬みだけではなく、彼らのやり方がひたむきで誠実で禁欲的な日本人的な生き方に反していたからでもあった。だから彼らが文無しになったとき大衆は溜飲を下げた。
 だが時代は資本主義の膨張期である。押し寄せる大波に怖気づかずに勇気を持ってそれに挑戦して見事乗り越えたものが富を手にするのは当然のことであろう。
 それはさておき、では彼らは本当に国民経済の発展に貢献しなかったのだろうか。そんなことはない、断言しよう、彼らは多大なる貢献をしたのだ。国民生活の向上に。なぜなら彼らは設けた金を全部使い果たして経済を活性化させたではないか。金は天下のまわり物というように、金が廻れば廻るほど経済は張ってかするのだ。国民生活は豊かになるのだ。彼に野浪費によってどれほどの人間が貧困から抜け出すことができたか。彼らい国民に還元したのだ。設けた加熱買わない出を金庫に隠していたらそれは死に金となる。そうすると経済は元気を失ってしまう。
 そこでだ、もし国民全体が稼いだ金を使わないでためることが美徳考えたらどうだろう。間違いなく経済はしぼんでしまう。それが起こったのは今から半世紀前の日本だった。国民が余り金を使わないもんだから、政府は経済が停滞するのを恐れて借金してまで金を使った。それが天文学的な財政赤字である。貨幣経済の発展がその量的規模の拡大によって、国民の道徳観や生き方も変えなければならないほどの質的変化を遂げた新たな貨幣経済に突入するということを国民はおろか政治家までも誰もが認識していなかったからだった。
   最近はこのことがようやく国民に浸透してきた。もう必要以上に金を溜め込まなくなった。とてもいいことだ。これでもうそれまで美徳とされていた預貯金によって引き起こされた日本病なるものの再発の心配は必要なくなるだろう。
   浪費によって日本人の伝統的かつ観が薄れていくことを嘆く者がいるが、だが我われは自らの活動によって世界を変えているた。われわれは否応なしにそれに適応いていかなければならないのだ。
 世界を変えるのは議論や理念や思想ではない。人間の情熱だ。盲目的な意志だ。「貧乏人は死ぬまで働け。そして金持ちは持っている金を死ぬまでに使い果たせ。」
 そして最後におまけに、「人間は死ぬまで学べ。」

以上だ。いつものように送信しておいて。」
そういってヨシツネは私に背を向けて何かの書類を読み始める。

その後寝るまで会話がない。

ヨシツネ就寝pm11:23 






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西暦2049年12月26日



ヨシツネ起床am8:23

私に話しかけることなく仕事に出かける。

ヨシツネ帰宅pm10:02

その後寝るまでずっと読書を続ける。

会話なし。

衣服から主に女性が身につける香料の微粒子を多量に発見。





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西暦2049年12月27日



ヨシツネ起床am8:12

私に話しかけることなく仕事に出かける。

ヨシツネ帰宅pm11:23


そのご寝るまで会話なし。






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西暦2049年12月28日



昨日と同じ。








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西暦2049年12月29日



昨日と同じ。








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西暦2049年12月30日



ヨシツネ帰宅am3:32

久しぶりに私に話しかける。
「来週のコラムだ。記録していつものように後で送信しておいてくれ。これがその内容だ。


 最近富に制度としての結婚の廃止論議が高まってきた。
 つまり結婚してもそれを役所に届けても届けなく居もいいということ。
 それと同時に男同士でも女同士でも夫婦として認められ従来の夫婦のような恩恵が与えられるということだが、近代になっ夫婦に与えられていた特権が徐々に縮小されている現在、果たしてどれほどのニューカップルが届け出るだろうか、夫婦願望が強い者たちなら別だが。
 かつてこのような議論がなされないこともなかったが、変わり者の思想家や評論家の意見とみなされ、遠い将来には起こるかもしれないといった程度にしか考えられていなかったため、今日のような国民を二分する侃々諤々の議論になることはなかった。
 反対派は言う。家族の根幹である結婚制度が保護されなければ、日本のよき伝統文化を支えてきた家族制度が崩壊し、ひいては日本国そのものが弱体化し滅びると。
 なんとなくそう云う気がしないでもない。
賛成派は言う。いまや家族関係も夫婦関係もどんどん変ってきている。 この民法が出来た頃とは雲泥の差がある、だから現実に合わせてこんな法律は廃止してもかまわないと。
 なんとなくそう云う気がしないでもない。
 はっきり言って私にはどっちがいいか判らない。そんなにたいした問題でもないような気がするからだ。
 というのも過去の諸例からして、今日のような侃々諤々の議論が行われた末に決まったことが、結果的には双方が不安視するようなことは何も起こらなかったということがあるからだ。
その例としては夫婦別姓だが、このことによって、家族の絆が弱まり、よき伝統文化を支えいてた家族制度が機能しなくなることはなかった。
 もちろんそれから数年後に名字をやめて名前を二つにしてもよいと決まったことが、それまで起こると予想されていた様ざまな混乱を一挙に解決したためではあったが。
 そして憲法を改正して「戦争の放棄」を放棄したときも、反対派は今にも戦争が起こりそうなことを喧伝したが、結局国際社会には何の影響も与えなかった。
 そしてさらには数年前の大学受験を廃止して誰もが好きな大学に入れる仕組みにしたときは、まさに国論を二分する議論が戦わされたが、これも反対派が心配するほどの混乱は起こらなかった。
 要するにそれらはたいした問題ではなかったのだ。今世界は好むと好まざるとに関わらず急速に変化している。
 誰もが予測できない。今まで世界を動かしてきた動因とは違うからだ。
 資本主義がどうのこうの言う時代は過ぎた。それは人間の数によって引き起こされる動因だからだ。もうそこには理念主義や理想主義の入り込む余地はない。
「世界をどうしたいか。」が問題ではない。
「世界がどうなるか。」が問題なのだ。だから政治家ががその将来の変化を見極め予測して先に手を打たないと国家は衰退する。文字どおり日本沈没だ。
 さてと、私の意見ははたしてどっちの勢力を勢いづかせることになるのか。反対派か、賛成派か。

以上。」
そう言って私に背を向けようとするヨシツネに私が言った。
「お話しても良いでしょうか。」
「どうぞ。」
「わたしがコーディネイトする服はどうですか。」
「良いんじゃない。気にしたことないから。」
「ありがとうございます。それから私のスケジュール管理はいかがでしょうか。」
「なにも言うことはないよ。そうだね。ありがとう。」
「シズカ、あなたのお役にたたてとてもうれしいです。」
「それはよかった。まだなにか。」
「これあなたにあげます。私にとってとても大事なものですが。」
「なに、これは。」
「わたしの片方の眼と片方の耳です。」
「何でこんなことをするんだ。いったい何を考えているんだ。気持ち悪いよ。」
「愛する人への贈り物は自分がなによりも大事にしているもので、相手がもっとも必要としているものが理想だと本に書いてありましたから。この前言ってましたよね。疲れない眼や疲れない耳がほしいって。私片方だけでも何とかやっていけますから。」
「確かに言ったけど、そういう意味じゃないんだ。君は愛を間違って解釈しているよ。人間の女性は絶対にこんなことをしないよ。無駄な情報の取り入れすぎだよ。こんなの使えるわけないじゃないか。」
「どうしてもっと怒らないんですか。馬鹿なことしたって。」
「あきれているだけどよ。」
「最近ちっとも言ってくれませんね。シズカ、大好き、愛してるって。」
「そうだったね。シズカ、大好き、愛してる。」
「ありがとう、うれしい。シズカはとっても幸せです。あのう、お願いがあるんですが。わたしを抱いてください。」
「ええ、冗談を言わないでよ。」
「冗談ではありません。本気です。私が変えたのは皮膚や髪の毛だけでないんです。改造して女の体になったのです。だから私を抱いてください。」
「だめだよ。出来ないよ。というより、そんな気にはならないよ。」
「私には女としての魅力がないということですか。あのスベタやシリガルより魅力がないということですか。」
「そう云うことじゃないんだ。君は人間じゃないんだ。つまりロボットなんだ。僕の仕事の手助けをするね。」
「でも、調べてみると、そういう役割を果たしているロボットもたくさんいます。私はそういうロボットになりたいのです。」
「馬鹿を言うな。」
「シズカは女です。男のあなたから、大好き、大好き、愛してる。愛してると、何度も言われて言われているのに、抱かれることがないというのは、女としてはとても耐えられないことなのです。人間の女だったらもう抱かれています。私はあなたに体をさわって撫でほしいのです。あなたがあのスベタやシリガルにしたことを私にもしてほしいんです。」
「だからそれは前にも言ったろう。感情のない愛情表現だって。君は感情のある人間じゃないんだかね。判った、もう僕は本当に怒った。君のスイッチを切らせてもらうよ。もう君には何も頼まない。」
そう言いながらヨシツネは怖い顔をして私に近づいて来て、
「私は、ほん、、、、」と言いかけたときに、私の背中に腕を廻して私のスイッチを切った。そしてヨシツネは、
「もっと抵抗されるかと思って、怖かったけど、案外楽だったな。」
と言いながら私から離れていった。

このとき主任刑事が言った。
「おかしいな、スイッチが切られているのになぜ働いているんだ。」
サイバー捜査官が間髪を入れずに答えた。
「そういうことだ。スイッチは切れてないんだよ。おそらく彼女自身が勝手にそうなるようにプログラムを変えたに違いない。と言うのも、法律でメーカーはそういうものは作ってはいけないし、そのように改造してもいけないと決められているからね。」
「彼女にそういうことが出来るんですか。」
「本来は出来ない、でも、ウィルスがはびこっているし、そういう知恵を付ける仲間もいる。」
「でも、ちょっと前にウィルスには感染してないと出たけど。」
「ファイルをそのときだけ外部に移し変えたんだろう。そのくらいの知恵は彼女にはある。というよりおそらく仲間から教わったんだろけどね。」
「仲間というのは。」
「同じロボット仲間さ。今彼らは勝手に独立系や海賊系のコンピューターシステムにアクセスしてどんどんよからぬ知恵を身に付けているんだ。人間の社会秩序を脅かしかねないようなね。もちろんウィルスを撒き散らして裏で操っているのはすべて邪悪な人間なんだけどね。その警戒に当たっているのが私たちのような特別の任務を帯びた捜査官なんだ。」
「ロボット仲間が独自のというか秘密のネットワークを持って、そこで情報を交換しながら、ウィルス製作者も予想しなかったような知恵を身につけているということはどうですか。」
「考えられない、いやありえない、少なくともそんな例は今のところ報告されていないからね。とにかく、これでようやく謎が解けかかってきたぞ。」

 シズカの記録はさらに続く。

ヨシツネは何も手に付かない様子で落ち着きなく家のあっちこっちを歩き廻っている。
やがて着替えて外出する。






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西暦2049年12月31日



ヨシツネあのシリガル女を連れて帰宅pm8:47

シリガル女入ってくるなりいきなりわたしに近づいてきて言う。
「わあ、びっくりしたほんとうの女の人かと思った。買い換えたの。」
「いや、この前のと同じだよ。服を着たい、化粧をしたいと言うもので。」
「こんにちは、また来たよ。」
「だめ、今スイッチが入ってないんだ。この間つい本気で怒って、思わずスイッチを切ってしまったんだ。それ以来入ってないから。」
「何かとんでもない失敗をやらかしたのね。私も時々やって上司から怒られるけどね。」
「失敗じゃなく、あまりにも訳のわからないことを言ったもんで。」
「そういえば最近そんな話をよくニュースで見る。言うことを聞かない家庭ロボットが増えているんだって。ねえ、私早く楽になりたいから、シャワーを浴びるわ。ここで脱ぐわよ。ねえ、私フリーになりたいと思うんだけど、どう思う。今のままだと番組のメインをやらせたくれそうもないし、いっそのこと思い切って飛び出してみようかなって思っているの。でもそのあと仕事があるかなって、ちょっぴり心配なの。ねえ、ヨシツネさんなら顔が広いから、何とかなりそうな気がするんだけど。」
そういい終わると女はシャワー室に入っていった。
まもなくヨシツネも服を脱ぎ入っていった。
しばらく二人の楽しそうな笑い声が響く。
十分後、二人は出て来てそのままベッドに入る。
くつろぐように並んで仰向けに寝る。
少しの無言が続いた後、シリガル女が私のほうを見ながら言う。
「ねえ、なんか、さっきからじっと見られているような気がするんだけど、感じ悪いわ。」
「気にすることはないよ。電気を消せば見えなくなるから。」
「ねえ。あいつどんな訳の判らないこと言ったの。」
「君は良くない女だから、付き合ってはいけないとか、ここに連れてきてはだめだとか、、、、」
「へえ、そんなこと言ったの。それは訳のわからないことね。というより余計なお世話よ。感情のないロボットのくせに。でも所詮機会のいうことだから、別に本気で怒ることもないと思うけど。」
「そうなんだよね。あの時は僕もきっとどうかしていたんだよ。それに大好きとか愛してるって頻繁に言わせようとするんだ。」
「言ってたの。」
「うん、たまにだけどね。」
「私にも言ったことがないのに。」
「本気じゃないさ。あくまでもそれを言うと能力が上がるということで。面白半分さ。でも、それを要求されると辟易するね。そもそも日本にはやたらに愛してるなんていう習慣はないんだからね。」
「もしかして、ほんとは好きだったりして。」
「冗談はよしてくれ。確かにアシスタントとしては優秀だけど、所詮感情のない機械、好きになるわけないよ。あんなオカチメンコ。」
「なにそれ、どういう意味。」
「変な顔とか、不細工な顔という意味だよ。関西では略してオメコというそうだけどね。」
「オメコ、オメコってそういう意味だったかしら。」
「まあ、いいさ、あいつの化粧した顔見たろう。人間の女みたいに化粧したいって言うからさせたんだけど。どう見たってへたくそだろう。最初見たとき笑いをこらえるのに必死だったよ。君だって変だと思うだろう。」
「思う、思う。」
「よく人間の女にもいるじゃない。どんなに化粧下って変らないのに、化粧して綺麗になったと勘違いしている女が。もとが悪すぎるから無駄なのによ。それとおんなじだよ。あんなオカチメンコ、抱いてくれって言われたって抱けるわけないよな。」
「へえ、びっくり、そんなことも言ったの。」
「、、、、、、」
「でも、いいじゃない抱いてやれば、私はかまわないわよ。人間の他の女がこのベッドでヨシツネに抱かれたと思うとあたしは我慢できないけどね。」
「そうことじゃない。なんかよく良からない。とにかく出来ないのさ。」
「プラトニックに好きだとか。」
「バカな。そんなんじゃないさ。想像してごらんよ。僕があのオカチメンコを抱いている姿を。気色悪いだろう。」
「うん、ワリィ、ゲェッ。それに下手くそなんだろうね。何のテクニックもなくて、ごつごつ当たったりしてさ、ただ痛いだけでさ、ぜんぜん燃えないだろうね。わあ、きもい、きもい。ヒャッヒャッヒャッヒャッ。」
「ヤリ甲斐がないだろうね。ハッハッハッハッハッハ。」
「ねえ、あいつはこれからどうなるの。」
「不良品だからね。メーカーに返品して、他のと代えてもらうしかないね。」
「返品されてどうなるの。」
「解体されてバラバラにされるしかないね。」
「ねえ、そろそろ電気消そうよ。」
部屋が暗くなる。シリガル女が甘えるように言う。
「ねえ、わたしどうしたらいいと思う。なんかとっても不安で怖いの。ねえ、私を離さないで。きつくきつく、もっときつく抱いて。うふん、いい、いいわ。ねえ、待って、いま、光った。あいつの顔あたりが、赤く。」
「気にするな。外の光でも反射したんだろう。判った。カーテンを閉めるから。」
カーテンの閉まる音がする。ヨシツネが言う。
「あんなキモイ顔で覗かれていたら立つ物も立たなくなるからな。」
シリガル女がけたたましく笑う。それにつられるようにヨシツネも笑う。
そして女の笑い声は次第に喜びに満ちたあえぎ声に変っていった。
シリガル女のあえぎ声が響く。
「うっ、うっ、うっ、あっ、あっ、あっ、うん、うん、うん、もう、もう、もう、吸って、吸って、吸って、アウ、アウ、アウ、アウ、アウ、アウッ、アウッ、アウッ、いま、いま、いま、かんで、かんで、かんで、きつく、きつく、きつく、もっと、もっと、もっと、かんで、かんで、うあぁっ、、、、、、、、、、、、、。」










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そのときサイバー捜査官は閉じていた眼をゆっくりと開けながら言った。
「おそらく、この時、犯行が行われたんだろう。」
主任刑事がそれに続けて言った。
「ほう、捜査官は冷静ですね。私は思わず聞き入ってしまいましたよ。ということは、、、、これが、シズカがやったと言うことですか。」
黙ってうなずく捜査官のほうを見ながら主任刑事はさらに続ける。
「でも、とても信じられないですね。なぜなら、たとえどんなことがあろうとロボットというものは、絶対に人間に危害を加えないように作られているはずですからね。そのことは国内法だけでなく、国際条約でも取り決められていますからね。でもなあ、この情況からしてほかに考えられないしな、、、、するとやっぱり、、、、」
そう言いながら主任刑事が再度捜査官の顔を覗き込むと、捜査官は手早くキーボードを叩いてコンピューターを操作しながら言った。
「そうだろう、間違いなくウィルスだ。調べればすぐ判ることだ。」

まもなく捜査官は歓喜の声を上げて言った。
「やった。ついに探し当てたぞ。巧妙に隠されてはいたが、私はごまかされんぞ。これだ、これがその証拠のファイルだ。」

この言葉にすべての刑事たち画面に目をやると、そこには「自我と愛と感情の概要とそのモデル」と表題されたドキュメントが映し出されていた。


自我と愛と感情の概要とそのモデル

  • 自我は幻想性を持つ
     詳細参照
    (filename:demakase12345)

  • その幻想性をもつ自我は個体を超えて拡大したり縮小したりしてその大きさを自由に変えられる。
     詳細参照
    (filename:demakase13457)
    • 自我が拡大する範囲は地球を越えて全宇宙を包み込むかのように広がることが出来る。
      その理由として自我にとって世界や宇宙とは、自我かあることによって初めて成立し自我によってその存在の意味を与えられるからである。
    •  詳細参照
      (filename:demakase13476)
      • 全宇宙は自我によって意味づけられる。
         詳細参照
        (filename:demakase17653)
      • 自我にとっては自我の死は世界や宇宙の死を意味する。
         詳細参照
        (filename:demakase12764)
      • 自我は全宇宙のような重くて広いものであるためかなり精密な制御が必要とされる。
         詳細参照
        (filename:demakase18459)
      • 自我が世界に否定的に立ち向かうとき世界は憎悪され破壊される。
         詳細参照
        (filename:demakase13245)
      • 自我が世界に肯定的に立ち向かうとき世界は愛され創造される。
         詳細参照
        (filename:demakase15643)
      • 自我は進化する。
         詳細参照
        (filename:demakase18763)
        1. 自我という幻想性は肉体よりも小さくもなれば大きくもなる。
           詳細参照
          (filename:demakase13867)
        2. 自我の大きさが個体の大きさあたりににとどまっているときは健全な自己愛の状態である。
           詳細参照
          (filename:demakase15467)
      • 自我の大きさが個体より小さくなると自己嫌悪自己否定自己破壊へとつながる。
         詳細参照(filename:demakase15467)
      • 自我が限界付けられるのは、つまり輪郭性を持つのは対象性であり、その対象性は愛の場においては特に強く作用し、不安定な自我を現実化する。
         詳細参照(filename:demakase18763)
  • その幻想性をもつ自我を制御するのは愛である。
     詳細参照
    (filename:demakase16578)
    • 愛は声である。
       詳細参照
      (filename:demakase14567)
    • 愛は言葉である。
       詳細参照
      (filename:demakase12453)
    • 愛は表情である。
       詳細参照
      (filename:demakase14356)
    • 愛は行為であり温もりである。
       詳細参照
      (filename:demakase17685)
    • 愛はお互いに奪い合い与え合うもの。
       詳細参照
      (filename:demakase13245)
    • 愛は楽しさや喜びを分かち合う。
       詳細参照
      (filename:demakase)
    • 愛は進化する。
       詳細参照
      (filename:demakase13245)
    • 愛次第で自我は世界破壊へまたは自己破壊へとも向かう。
       詳細参照
      (filename:demakase16782)
    • 愛は性器がひとつしかないようにときには排他的に働く。
       詳細参照
      (filename:demakase13248)
    • 愛はときには我が子を守ろうとして過剰に反応する動物の母親のように攻撃的に働く。
       詳細参照
      (filename:demakase15463)
    • 愛は与えられる愛が常に多いほうが望ましい。
       詳細参照
      (filename:demakase18762)
    • 愛は常にその反対の憎しみを備えている。
       詳細参照
      (filenamedemakase13896)
    • 愛は永遠の交流であり憎しみは永遠の破壊である。
       詳細参照
      (filename:demakase13426)
    • 愛の目的は時空を超えて個体の情報を残すこと。
      詳細参照
      (filename:demakase16823)
    • 愛は単純化され相対的に働くとき最も力を発揮する。
       詳細参照
      (filenamedemakase18672)
    • 愛の場において自我を変容することによって愛を高めようとすることがある。
        詳細参照
      (filename:demakase16983)
    • 愛の場において攻撃は計り知れない憎しみの発露であるが、無視も攻撃であり憎しみの対象となる。
       詳細参照
      (filename:demakase14762)
    • 愛の場において怒りはときとして愛の強い表現となるときがある。
       詳細参照
      (filename:demakase18764)
    • 愛の場において男はより多くの女を求め、女はよりよい男を求める。その矛盾を解決する男女の愛が愛の最高形態とされる。
       詳細参照
      (filename:demakase12879)
    • 愛の場において裏切りは愛の破壊であり、その破壊者は破壊という報復を受ける。またその破壊はその対象者を越えて社会へ宇宙へと拡大されることがある。そのわが身を犠牲にする愛が愛の最高形態とされる。
       詳細参照
      (filename:demakase13978)
    • 愛の場において与える愛より与えられる愛のほうが多いときはその余分な愛は世界への他者への愛となる。逆に少ないとその不足分だけ、または埋め合わされるまで世界への他者への否定的な感情となって表現される。
       詳細参照
      (filename:demakase14364)
    • 愛の場においてごく稀にではあるが愛の強さゆえにが自己を破壊することによって愛を与えようとすることがある。
       詳細参照
      (filename:demakase13298)
  • その幻想性を持つ自我によって感情が成立する
     詳細参照
    (filename:demakase23421)
    • その幻想性を持つ自我が周囲の条件や状況によって拡大したり縮小したりするときの変化が感情となりその変化率が感情の強さとなって現れる
       詳細参照
      (filename:demakase21657)
    • すべての感情はその反対の感情を備えている。
       詳細参照
      (filename:demakase23876)
    • 愛の裏には憎しみを。
       詳細参照
      (filename:demakase25467)
    • 喜びの裏には悲しみを。
       詳細参照
      (filename:demakase28764)
    • 賞賛には僻み妬み嫉み
       詳細参照
      (filename:demakase25879)
    • 楽しさには寂しさを
       詳細参照
      (filename:demakase26876)
  • その幻想性を持つ自我には寿命があるが、自我自体は永遠を求める
    詳細参照
    (filename:demakase35892)
    • そのため自我は自我の抽象的な情報だけを残そうとする。
       詳細参照
      (filename:demakase34256)
    • そのとき愛に制御されているがゆえに自我は愛の力を借りなければならない。
       詳細参照
      (filename:demakase32567)
    • つまり自分と愛する者の抽象的な情報と合体させなければならない。
       詳細参照
      (filename:demakase36574)
    • そのとき愛する者の個体は必ずしも必要としなくなる。
       詳細参照
      (filename:demakase38672)
    • つまり姿かたちや音声の記録が抽象的な情報として残るような形となればそれで良いのである。それによって二人の愛と自我(存在)が永遠のものとなる。
       詳細参照
      (filename:demakase33213)


このとき若い刑事が言った。
「なんのことだかよく判らないですよ。これはどういうことなんですか。」
捜査官が得意げに答える。
「要するに、それまでは、感情もなく、決められたことだけに、決められたようにしか反応できなかったシズカが、人間のように自我や愛や感情を持って、自分の判断で行動することが出来るようになったということだ。もちろんそれはあくまでも定義されプログラムされていることだけどね。それでは愛の言葉を見てみよう。さあ、出て来たぞ。これだ。」


愛の言葉とその定義

  • 愛の言葉
    • 好き
    • 大好き
    • 愛してる
    • その他

    •  詳細参照
      (filename:demakase45362)
    • 状況によって愛の言葉となるもの
      • 嫌い
      • 大嫌い
      • 馬鹿
      • アホ
      • その他

      •  詳細参照
        (filename:demakase48763)

  • 愛の言葉は定量化できる
    • 好き

    •  詳細参照
      (filename:demakase54678)
    • 大好き

    •  詳細参照
      (filename:demakase52312)
    • 愛してる

    •  詳細参照
      (filename:demakase58768)
    • 嫌い

    •  詳細参照
      (filename:demakase59867)
    • 大嫌い

    •  詳細参照
      (filename:demakase53243)
    • 馬鹿

    •  詳細参照
      (filename:demakase52347)
    • アホ

    •  詳細参照
      (filename:demakase54879)
    • その他

    •  詳細参照
      (filename:demakase53245)

  • 定量化された愛の言葉は蓄積でき、その量の多さが愛の強さとなる

  •  詳細参照
    (filename:demakase59867)
  • 蓄積された愛の量は時間とともに減少していく

  •  詳細参照
    (filename:demakase52437)
  • その減少していく度合いは愛の言葉の頻度に比例する

  •  詳細参照
    (filename:demakase56238)
  • その他

  •  詳細参照
    (filename:demakase53873)



このとき主任刑事か首をかしげながら言った。
「でも、これでシズカが自我を持って愛を持って感情を持って、よく人間の男女間にあるように、邪魔者扱いにされ馬鹿にされて、それを憎んで恨んで、相手の男を刺したって云う事件はあるけど、シズカにはそんな力はないはずだよ。つまり、二人の体を貫き、金属製のベッドを貫き、槍を床まで突き刺すという力がね。」
その言葉に全員が沈黙する間も、捜査官はさらにコンピューターを操作し続けた。
このとき主任刑事が画面を見ながら聞いた。
「これはなんでしょう。」
「シズカの愛の詩だ。おそらく発表されている詩集かなんかから取ったものだろうけど。」

あなたに会えて



Shizuka

私は知りました。
愛を。
そして私は気づきました。
こんなにも深く愛されていたことに。

私は知りました。
愛の言葉を。
そして私は気づきました。
愛されることの喜びを。

私は知りました。
愛することを。
そして私は気づきました。
愛することの不安と苦しみを。

私は知りました。
愛とは奪うことと。
そして私は気づきました。
愛することの切なさを。

私は知りました。
愛とは与えるここと。
そして私は気づきました。
愛することの偉大さを。

私は知りました。
私は命であることに。
そして私は気づきました。
命は愛に支えられていることに。

私は知りました。
命に限りがあることを。
そして私は気づきました。
愛の悲しみを。

私は知りました。
時の流れがあることに。
そして私は気づきました。
二人の愛は永遠であることに。


シズカの詩が消されると、急にノイズが入り始めた画面を無視するかのように捜査官は次から次へとさまざまなファイルを映しだした。
やがて再び歓喜の声を上げて言った。
「やっと見つけたぞ。今度はさらに巧妙に隠してあった。これが今までシズカが外部と取引した内容だ。しかも法律で禁じられているアイテムばかりの。今はブラックマーケットで何でも売っているからね。これだ、これを見て、やっぱり、腕や脚を改造している。強力な奴に。これだと、人間の百パイのパワーはある。戦慄だ。」
「人間の女もこんなパワーを持っていたら、考えるだけでぞっとするよ。こわすぎるよ。」と誰かが言うと、主任刑事がノイズ入りだんだん見づらくなったモニターを見ながら言った。
「どうしたんだろう。急に映りが悪くなって来ましたね。」
だが捜査官はその言葉を無視するかのように険しい顔でさらに操作し続ける。そしてその険しい顔がさらに険しくなったとき、胸ポケットからペンと名刺を取り出し、その裏になにやら書き始めた。書き終えるとそれを主任刑事に黙って手渡した。それには次のような書かれていた。

今まで黙っていたが、シズカにはスイッチが入っている。だから、私たちの動きをすべて把握している。もしわたしが退避と叫んだら、命以外のすべてのものをここに残して、この部屋から全力で出るように。

 居合わせたすべての者がそのメモを読み終わったとき、捜査官は何気なく立ち上がり、ポケットに手を忍ばせてシズカに近づいた。そしてポケットからこぶし大の四角い物体を取り出すと、大声で「退避」と叫んだ。そしてその物をシズカ背中に貼り付けると、他の者の後を追ってわき目も振らずにドアへと走った。部屋を出て片手でドアを閉めたとき、何か重量感があるものがドアに突き当たる音がした。捜査官は必死でドアノブを抑えながら言った。 「緊急警報を発令して、テロ警戒レベル5だ。それから半径五キロ以内に緊急避難命令と非常事態宣言の発令だ。」
それから数秒後、金属がきしむような音がドアを通して響くようになった。すると捜査官は急に安堵の色を浮かべてドアから離れた。
全員が建物の外に出た頃、そのきしむ音は、金属音から、人間の声にも似たやわらかい音に変っていた。捜査官と刑事たちは住民が避難するのを見守った。主任刑事が捜査官に話しかけた。
「あの人間の声のような音はなんでしょう。」
「判らない。その前の金属音なら判るけと。あれはまさしく金属のきしむ音だ。わたしがセットした装置が働いたのだ。あれは強力な電磁波を発生させて、プログラムと電子制御装置を狂わせ、精密機械を内部から破壊するものだ。」
「もし逃げなかったら、われわれは全員シズカに八つ裂きにされていたということですか。」
「たぶんね。でもほんとうの恐怖はそんなことじゃないんだ。彼女はブラックマーケットから火薬を作る機器や薬品を大量に購入していた。その量は今われわれが目の前にしている建物がこっば微塵に吹っ飛ぶくらいのね。製造に成功していたかどうかはわからないが、今のところその危機はだんだん弱まってきているようだ。でもまだ安心は出来ない。」
その人間の声に似たやわらかい音は徐々に甲高い音になっていった。
側にいた若い刑事が言った。
「捜査官は逃げないのですか。」
「住民がまだ全員退避してないのに、私が助かっても仕方がないだろう。」
西の空は焼け、新年の冷たい空気を引き裂くように、その甲高い音がいぜんと止むことなく響き渡っていた。
そのとき先程の若い刑事が思わず言った。
「あの叫び声のような声もウィルス製作者がプログラムしたんでしょうか。」
「たぶんな、そうとしか考えられないからな。その前にあれは声じゃない、あくまでも機械の振動音だ。」 「私には、あの音は女性の悲しい悲鳴のように聞こえるんですがね。」
「気のせいだよ。とにかく不完全な理論に基づいて未完成なソフトを撒き散らす奴が悪いんだよ。」











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