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青い枯葉(3部) 狩宇無梨 その夜マシルは、将来の夢をはっきりと言えるクラスメイトたちが羨ましいと思うながらも、自分の将来のことを思うと、眠れないほど不安になった。 本格的に進路を決定する来年の春までには、まだ充分に時間があるとはいえ、いまだに自分にはどういう才能があり、また自分にはどのような職業が合っているのかも、そして自分は本当は何が好きなのかも、まったく判らないにもかかわらず、今日学校では、皆がそれぞれに自分の夢を言うものだから、それに釣られて仕方なく、人類や地球の歴史を学びたい、などと、それ以来ずっとみんなに嘘を付いてしまったという良心の疚しさを感じるようなことを、つい言ってしまったのだが、実際は自分は何になりたいのか、まだなんにも決まっていなかったのだから。 マシルはこれからどうすれば良いのか本当に判らなかったのだ。 だが、自分を眠れなくさせている不安の原因は本当にそれだけなのだろうかと思った。 そこには、これから自分が大人になって生きていかなければならない人間社会そのものにもあるような気がした。 でも、それはどういうものなのかは具体的なものとしてはまだ頭に思い浮かんでは来なかった。 そしてマシルは、今まで、これから人間として生きていくために、これだけは最低限必要とされている知識だけではなく、自分から進んで色んなことも学んできたことが、はたして将来ほんとうに役立つのだろうかとますます不安になるだけだった。 そしてマシルは、生まれて初めて、これから生きていくためには、もっともっと沢山のことを知らなければならないだけでなく、未来は決して祝福されものでも、希望に満ちたものでもないような気がしてきた。 翌日、マシルとヘレスとカラムの三人は町の広場で会った。 昨日より人出が多かった。 カラムはマシルを見つけるなり真っ先に言った。 「これからヘレスと二人でセイハン(注7)に行くんだけど、マシルも行く?」 「何をしに?」 「春まで暇だから、それまでに色んなものを見ておこうと思って。」 「見聞を広めるためなんだ。」 「住んでいる人も、町並みも僕たちの町とだいぶ違うみたいなんだ。どうする?」 「またの機会にする。ちょっと気分が優れなくて。」 「あれだな、この時期になると不安になったり気分が滅入ったりするという病気十一月病だな、重いのか?」 「よく判らない。みんなは?爽快?」 「まあまあかな。理由は何?」 「これからどうしてよいか判らないんだ。 とても不安で。 いままではそれを目標にして自分なりに必要と思われることを勉強してきたつもりなんだけど、でも僕は、本当に政治や法律のことを勉強したいのかなって。 勉強してその後どうするのかなって悩むんだ。 ヘレスもカラムも、自分の進路に迷うことはない?」 「そんなことないよ。 僕は宇宙物理学者になりたいと思って、小さい頃から勉強してきたけど、でもそれは半分以上はお父さんの影響なんだ 。最近ときどき地球や人間を事故や災害から守る人になりたいと思うこともあるんだ。 でも僕はそれ以上深く考えない。 お母さんも、そんなに焦って自分の進路を決める必要はないって言ってるから。」 「僕だって不安だよ。 僕は物を作るのが好きだから発明家になりたいといったけど、でも僕にその才能があるんだろうかって思うときもあるからね。」 「そうなんだ。 ところで昨日の続きだけど、詳しく判った? やっぱりあれは本当だった?」 「アッ、あれ、だめだった。 いつものように地球の歴史から始まり、地球に起こった大事件、そして、人間が犯した犯罪について調べているときだった。 アクセスできなかった。 突然警告を受けてアクセスできなくなった。 十八歳まではアクセスできないって。 後でお父さんからも言われた。不正アクセスは違法行為だからやめるようにって。 情報管理局から連絡があったみたいなんだ。 どうして不正アクセスだと判ったんだろう? 意外と厳重だったな。 まあ、いずれ大人になればは判ることさ。」 「結局僕たち子供は他にやることがあるってことなんだろうね。」 「でもね、戦争の原因だけは判ったように気がする。」 「なに、それは。」 「ええとね。 それは、この地球上には二種類の人間がいるからみたいなんだ。 うんと働いて食べ物とか着る物とか、生きていく上で必要にものを生み出す人間と、ちっとも働かないで、それを横取りしようとする人間がいるから見たいなんだ。 色んな理由をつけて近寄ってきてね、それで?」 「よく判らない、たとえばどんな人間のこと。」 「たとえば、危険から守ってあげるといって近寄ってきたり、幸せにしてあげるといって近寄ってきたり、病気を治してあげるといって近寄ってきたり、揉め事を解決してあげるといって近寄ってきたり、悩み事から開放してあげるといって近寄ってきたりしてね。」 「そんなことで昔の人が戦争したなんて信じられない。 みんな、今どこにでもある総合相談所(注6)でやっていることじゃない。」 「そういうこと。 とにかく昔は色んなことで遅れていたみたいだね。 それじゃ急いでいるから僕たちはもう行くよ。」 そういい終わると二人は屈託のない笑顔を見せながらマシルから走り去って行った。 翌日は、青空の広がるありふれた秋の日だった。 ライヤは家族とともに、人類史上初めての宇宙移住者として、地球を飛び立った。 その様子は華やかに、そして感動的に全世界に中継された。 だが、マシルは見なかった。 なぜなら、そのときマシルは町を離れ森を彷徨っていたから。 夕刻、家に帰ったマシルは一人になってライヤのことを考えた。 マシルはライヤのことを学校に入る前から知っていた。 ときおり町で見かけ、印象に残った。 その可愛さが際立っていたから。 それで学校に入って、ライヤと同じクラスと判ったときには、ドキッとした。 でも、なぜかマシルは、そのことを表に出さないようにした。 その後マシルはライヤにたいしては、意識して他の女の子と同じように接するように心がけた。 そのためずっとクラスメイトであったにもかかわらず、特別に親しくはならなかった。 そのあいだマシルは、他の男の子たちもライヤに魅了されているのがだんだんと判ってきた。 それはライヤに接するとき、他の女の子と違って、その言動がぎこちなくなったりするその態度ではっきりと判った。 でも、マシルはそんな様子を見ても、自分だけ今までどおりに接しようと心がけ、そして実際にも、そうすることが出来ていた。 最近になってマシルは、自分がライヤに惹かれる理由は、その顔かたちの美しさだけではないということが、なんとなく判ってきた。 でも、それは、他の女の子たちが持っていないような何か、と感じるだけで、それを言葉でどう表現してよいか判らなかった。 ちょうど二ヶ月前、こんなことがあった。 夏休みを利用して人類の歴史について勉強していたマシルは、遺物の写真や映像だけではなく、実際に自分の目で、それらを見たいと思い、町の歴史博物館に行った。 すると偶然にもそこに来ていたライヤと会った。 会館直後だったので人影は少なく、ほとんど広い館内で二人だけといってもいいくらいだった。 ライヤとは学校に入ってからはずっとクラスメイトだったが、実際いままでプライベートな話をしたことはなかった。 その願望をひそかに心の奥底に抱いていたのは確かだったが。 だが、そのときマシルはどうしても自分からライヤに話しかけることは出来なかった。 それまで経験したことがないようなときめきに不意打ちされたから。 そしてマシルはさらに、それまでにま経験したことがないような戸惑いを感じ混乱した。 それはまさに、今の、この二人っきりの状況こそが、そのチャンスと、強く意識したからでもあった。 だが、そのことは返ってマシルに、ライヤに気づかない振りをし続けることを選ばせてしまった。 せっかく博物館に行ったのに、なぜか何も目的を果たせなかったマシルは、次の日も歴史博物館に行った。 すると再びライヤと出会った。 マシルは昨日と同様に戸惑い混乱した。 さらに昨日以上に胸が高鳴るのを覚えた。 そしてマシルは、昨日のようにライヤに気づかない振りをした。 結局マシルは二日とも自分の目的を果たすことは出来なかった。 でも、その次の日、マシルは博物館に行くのを意識的に止めた。 なぜなら、またライヤに会いそうな気がしたから。 ライヤが旅立った翌日、マシルはラクルから呼び出された。 スポーツドームの裏で壁にもたれて待っていると、ラクルが手作り自転車(注1)に乗ってやってきた。 栗色の髪を手でなでながらマシルに近づくと、ポケットから白く四角い物を出して言った。 「これ手紙、ライヤから。 おととい君に渡してくれって頼まれたんだけど、ついうっかり忘れてた。 だいたい察しは付くんだけど、たぶん、、、、」 「手紙って?」 「紙に文字を書いて、相手に自分の考えや思いを伝える手段だよ。 大昔のコミュニケーションの方法だよ。 でも、それは、ひょっとするとラブレターかな、」 「ラブレターって?」 「好きな人に思いを告白する手紙だよ。」 「ライヤが、僕に、まさか。」 「ところで昨日はやっぱり来なかったけど、見た、ライヤたちが出発するところ。」 「いや、見なかった。」 「とても感動的だった。 なんか地球全体から喜びが湧き上がってくるような。 でも、その後、もう会えないんだなあと思うと、泣きたいくらい寂しくなったんだけどね。」 「、、、、」 「ねえ、君はもう準備始めている。」 「準備って?」 「これからのことさ。」 「まだ、春までは、まだ時間があるから。」 「君のお父さんはウルサク言わないんだ。 森を耕して食べ物を作る人になるっていうのはダメだって言うんだ。 本当の自然相手は大変だって言うんだ。 そんなものは機械や食料工場に任せれば良いというんだ。 どうしてもダメだと言うなら僕はうちを出る。 それでもしかしたら、しばらくはマシルや皆には会えないかもしれない。 たぶん親戚を頼って隣り町に行くと思うから。 マシルの将来の夢はなんだっけ。」 「僕は、このあいだ学校では歴史についてもっと勉強した言ったけど、でも政治や法律について勉強して、新しい町づくりに参加もしてみたい、本当はよく判らない、とても迷っている。」 「マシルのお父さんやお母さんは。」 「なんにも言わない。僕に任せているみたい。」 「いいな。」 小さくそういいながら遠くに目をやるラクルに、マシルはラクルの瞳が皆と違って緑色であることに初めてのように気づいた。 そしてラクルの言葉を聞いてマシルはなんとなくホッとした気持ちになったが、でもラクルの固い決意を羨ましくも思った。 二人はそれ以上話を交わすことなく分かれた。 そのうちにまた会えるような気がしていたからだ。 家に帰るとマシルは、さっそく自室にこもりライヤからの手紙を広げた。
いつ自分がそんな不機嫌そうな表情をしたんだろうと不思議に思いながらも手紙を読み終えると、マシルは胸が締め付けられるような寂しさに襲われた。 ライヤが自分になにを伝えようとしたのかよく判らなかったが、永遠に二度と会えないことだけははっきりと感じてることが出来たからだ。 そしてもう二度と再び読むことないだろうと思いながら手紙を折りたたんだ。 そしてマシルはもう永遠に会うことはないライヤを思い浮かべた。 それは歴史博物館で偶然あったときの、驚いたような途惑ったような笑みを湛えた表情だった。 そしてマシルは激しく後悔した。 もしあのとき勇気を持ってライヤに話しかけていたら、ライヤは旅立つことはなかったと、そして、ライヤを失わずに済んだと。 ![]() жжжжжжжжжжжжж |