どうしても見たくない、
クンがあのイヌたちに、
かみ殺され、バラバラに引き裂かれるのを。
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きらめき
マーシャル センフィールド
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「クン、そんなに飛び跳ねて、どこへ行ってたの。危ないからあまり遠くへいっちゃだめよ」
「赤くて丸いもの食べてきた」
「木苺ね。おいしかった」
「うん。それから、白くて丸くて柔らかいもの。なにかなって顔を近づけると、ぱっと散って、風に乗って、みんな飛んでいっちゃった。なんか楽しくなったから、跳んで帰ってきちゃった」
「タンポポね」
「ふうん。まぶしいね、あれは?」
「太陽。これからどんどん暖かくなるのよ」
「あれは?」
「雲、大きくなったり小さくなったりするのよ」
「あれは?」
「鳥、カモメっていうのよ」
「あれは?」
「蝶々。クンにとって初めて見る物ばかりね」
「あれは?」
「波の音、海から聞こえて来るのよ」
「あれは?」
「あれは、、、、イヌの声。アッ、いけない、大変だ、どんどん近づいている。あんなにいっぱい。逃げなくちゃ。クン、走るのよ。そっちに。早く。アッ、ダメだ、こっちからも聞こえる。クン、そっちじゃない。こっちに行くのよ」
「えっ、そっちは崖だから、海に落ちて危ないから、近づいちゃダメって、いつも言ってるじゃない」
「いいから、走るの、速く、もっと早く」
「ねえ、どうして走るの?」
「いいから、前を向いて走るのよ。アッ、ダメ、どんどん近づいている。クン、早く、もっと早く走って逃げるのよ」
「ねえ、どうして逃げるの?どうして犬は私たちを追いかけてくるの?」
「それはね、あのイヌたちは私たちを取り囲み、かみ殺そうとしているからなのよ。ああ、もうダメ、あっちからも来ている。もう逃げられない。どうしよう。さあ、クン、私に付いて来るのよ。全力で走って付いて来るのよ」
「ねえ、どうして?どうして犬は、私たちをかみ殺そうとするの?」
「いいから、クン、走って、走って、走るのよ。そして突然道がなくなっても、勇気を持って、青空に飛び出すのよ。私がするように」
そうすればあのカモメのように、 空を飛ぶことが出来るはずだから。
「ねえ、私たちって何なの?」
「私たちはキツネ」
「キ ツ ネ?」
「さあ、クン、跳んで」
どうしても見たくない、
クンがあのイヌたちに、
かみ殺され、バラバラに引き裂かれるのを。